作曲って、ある日何気ない日常の暮らしや感情の中で、自然とメロディーが湧いてきたりするのですか?

なぜ僕が作曲に関心を持つようになったか、それはやはりバークリー留学です。
そこに行ってみると、猫も杓子も作曲をしている、コンサートといえばすべてオリジナル、もちろん授業には作曲系のクラスが山ほどあり、そのそれぞれに、独自の作曲法を教えている、というこんな環境に、ほんと面食らった記憶があります。
すぐに親しくなった日本人の仲間も、セッションといってもみんなオリジナル曲を持ってくる。
しかもそれがまた、なかなか秀作揃いと来た日には、「ああ、僕も作曲を勉強しなくては!」と強く思った次第です。

でも最初は、どこをどうひねっても、良い曲が出てきません。産みの苦しみとはまさにこのことかという状況でした。
でも、産みの苦しみを2年くらいやっているある日、「ポンッ」と、良い曲とまではいいませんが、ある程度納得出来るようなレベル曲が浮かんでくるようになってきました。
そうなれば、作曲は本当に面白いですし、言い換えれば、まさに自分の子供を世に送り出すようなものです、本当に素敵な作業となってきました。

もちろん、こういった訓練がベーシストとしてのありようも変えてくれました。
というのも、作曲する過程では(もちろん編曲もそうですが)音楽を俯瞰的に見ることが出来、ひいてはベースを演奏する上で、多くの示唆に富んだアイデアを得ることも出来るからです。
ポール・マッカートニーを筆頭として、ジャコ・パストリアス、スティーブ・スワロー、チャーリー・ヘイデン、マーカス・ミラー等々、僕が大きな影響を受けたベーシストは皆、素晴らしい作曲家でもありますね。

さて、ではご質問の件について。
「三色の虹」に関しては、その多くが、バークリー時代に、そのオリジナルな骨格やアイデアが出来ていた曲です。
あのアルバムを録音したのは僕が36才の時。そういう意味では、あのアルバムは20歳代半ばから30歳代半ばにかけての、僕の音楽的経験とバークリーで学んだ事の集大成的なアルバムです。
当時はまだ時代はバブルの最後の頃だったので、スタジオ代も相当高かったのですが、今から思えば、少なくともジャズのアルバムでは考えられないような時間と経費をつぎ込みました。
ミュージシャンだけで総勢30人あまり、日数にして10日あまりを費やしたので、実際最高級の外車が買えるような金額がかかりました。もちろん僕の自腹です。
今から考えれば、よくそんなことが出来たと思いますし、それ以上に、今思い返しても、あの頃の音楽にかける自分の情熱は、あの時点が最高だったのではないかと思えるほどです。
そんな情熱が、きっと音から出ているのでしょうか? 

具体的な作曲法という話をすれば、もちろんそれぞれの楽曲にいろんなコンセプトと作曲法があるので、それを一つ一つここで述べるのは無理ですので、簡単にお話ししておきます。
それぞれの曲のタイトルや、ジャケットの中の僕のコメントにもあるように、僕の作曲の大きな動機付けは、基本は、この世にある不条理や理不尽に対する悲しみや怒りです。
本当は恋や愛の曲をかければ良いのですが。
ですので、まず大きな問題意識が動機となり、そこから浮かぶイメージを具体的な音楽的要素と結びつけて行くようにしています。
具体的な音楽的要素というと、例えば簡単なベースパターンであったり、グルーブパターン、あるいはある一つのコードであったりコード進行であったりもします。
たとえばタイトル曲の「三色の虹」は、そのタイトルのとおり、「まずは自分の常識を疑ってみよう。自分の常識は他人の非常識!」という問題定義から始まっています。
(中ジャケットを読んだことがない人のためにちょっと解説しておきます。アフリカのある人たちには、虹は三色にしか見えない、というよりも、色を分類する言葉が3原色しかないので、その人たちにとっては虹は三色という判断になるわけです。もちろん虹は誰にとっても同じはずです。ですので、逆に虹は七色ではなく、ある人にとっては10色にも15色にも分類できるということもあるわけです。ということで、同じものを見ても、その背景にある環境や出生、階級によって、ものの見え方は異なるということを感じ、このタイトルが浮かびました。)

でも僕は本当に凡人ですから、「ある日突然、何気ない日常の暮らしや感情の中で、自然とメロディーが湧いてきたりする」ことはほとんどありません。
ほとんど場合、「さあ、作曲するぞ!」って決心してから「譜面や楽器とにらめっこして」作っています。

でも自分でそこそこ納得のいく曲が出来たときの喜び、そしてさらには自分のオリジナル曲を聴いてくれた方から「とても良い曲です。心にぐっときました!」なんて感想をいただけた日には、もうそんな苦しみは吹っ飛んでしまいます!

いかがでしょうか?

CODA /納浩一 - NEW ALBUM -
納浩一 CODA コーダ

オサム・ワールド、ここに完結!
日本のトップミュージシャンたちが一同に集結した珠玉のアルバム CODA、完成しました。
今回プロデュース及び全曲の作曲・編曲・作詞を納浩一が担当
1998年のソロ作品「三色の虹」を更に純化、進化させた、オサム・ワールドを是非堪能ください!