
ベーシストのための理論入門講座の第5回前半です。
今回は、ノン・ダイアトニックコードについてお話ししたいと思います。
ノン・ダイトニックコードに関しては、大きく分けて2つの重要なトピックがあります。
それは、
1)サブドミナントマイナー
2)セカンダリードミナントとリレイテッドⅡマイナー
です。
今回はそのうちの、「サブドミナントマイナー」に関してのお話をしたいと思います。
説明に入る前に少し、ここまでの理論講座での、今回の内容に関係の深いことに触れておきましょう。
コードには、まずそのキーのスケールノートだけで出来ている、いわゆるダイアトニックコードというものがあります。
第1回ではメジャーダイアトニックコードに関してお話しました。そこでは、7つのコードがありましたね。良ければ、是非第1回の講座を再読してみてください。
そして前回の第4回の講座では、マイナーダイアトニックコードについて解説しました。
マイナースケールには、ナチュラルマイナー(自然短音階)、ハーモニックマイナー(旋律的短音階)、メロディックマイナー(旋律的短音階)の3種類があるので、それぞれのスケールの構成音を積み重ねて出来るダイアトニックコードは、すべてで16個となります。この辺りも、是非第4回の講座を読んで確認していただければと思います。
ということで、ノン・ダイアトニックコードとは、メジャーキーの曲ならその7個、マイナーキーの曲ならその16個以外のコードが、曲中に現れた場合、それらのことを指します。
もちろん、転調となってしまえば、新たなキーでのそれぞれのダイアトニックコードが現れます。
その辺りの見極めは、曲ごと、あるいはコード進行ごとに判断することとなります。
が、ジャズの場合(ポピュラーミュージックといってもいいと思いますが)、転調とまでは言えない、いわゆる瞬間転調(あるいは一瞬転調、部分転調、と呼んでもいいかもしれません)といって、例えば1小節や2小節だけ、あるいは数個のコードのみが、そのキーの中にありながら、一瞬転調したように見える、そんな考え方で作られているコード進行が多々あります。
そのときに、一体どのようなアイデアで、その一瞬転調したようなコード進行を作るかというのが、ノン・ダイアトニックコードの考え方の基本です。
そしてそのアイデアには、大きく分けて、先に挙げた「サブドミナントマイナー」と「セカンダリードミナントとリレイテッドⅡマイナー」の2種類があるということです。
大事なことは、これらのコードやコード群は、見た目には転調しているように見えますが、それは転調とは呼ばないということです。
これが「ノン・ダイアトニックコード」の基本的な考え方です。
では、「サブドミナントマイナー」の解説に進みましょう。
第2回の講座で、同主調について解説しました。
もし良ければ、もう一度読んでいただければと思います。
例えばCメジャーの同主調はCマイナーとなります。わかりやすいですね。すなわち、同じルートから始まる、メジャーとマイナーのキーは、お互いに同主調の関係となります。
サブドミナントマイナーとは、あるメジャーキーにおいて、同主調のマイナーキーの中に現れるサブ・ドミナントの機能を持つコードを、それらを転調と考えず、そのままメジャーキーの中で、サブドミナントの働きを持つコードとして使おうというアイデアです。
ではここで質問です。
問1)メジャーキーの中で、サブドミナントの働きを持つコードはなんでしょう?
答)そう、Ⅱm7、ⅣMaj7の2つですね。これは簡単かもしれません。
問2)では、マイナーキーの中で、サブドミナントの働きを持つコードはなんでしょう?
これは、先ほども言ったとおり、マイナースケールは3つありますから、そこに現れるコードをすべて覚えるだけでも大変。さらにその各コードの機能は、なんていった日には、「もうお手上げ!」という人も多いかもしれません。
でも第4回の講座でも解説しましたが、どのコードがサブ・ドミナントの働きを持つかを判断するには、6度の音が入っているかどうかを考えれば良いといいましたね。
6度の音は、そのコードがサブドミナントの働きを持つ上で本当に重要なんです。
ただ、メロディックマイナーは、その6番目の音が、ルートからみて、ナチュラル6度になりますので、そのスケール上に出来るサブドミナントコード(Ⅱm7、ⅣMaj7)は、マイナーキーとしてのサブドミナントの響きは持ちません。
すなわち、ルートからみて、b6度の音(Cのキーでいうなら、Abの音)を持つコードが、マイナーキー上でのサブドミナントのサウンドを持つコードとなります。
それは以下の4つのコードになります。
Ⅱm7(b5)、Ⅳm7、bⅥMaj7、bⅦ7
Cのキーで考えましょう。
Cのキーの曲の中に、Dm7(b5)、Fm7、AbMaj7、Bb7といったコードが現れた場合、それらのコードは、本来のはサブドミナント(Dm7,FMaj7)と同じ働きを持つコードとなります。
ただ本来のサブドミナントと、その成り立ちを分けるために(簡単に言えば、違う名前を付けけて差別化するために)、サブドミナントマイナーという呼び方をします。
ちょっと混乱するようなネーミングですよね。
ということで、ここでもう一度、明確にしておきます。
「サブドミナントマイナーとは?」と問われれば、「マイナーキー上にあるサブドミナントの働きを持つコードを、同主調のメジャーキー上で借用して使う場合の、それらのコードの機能」ということです。「マイナーキーから借用してきた、サブドミナントの働きを持つコード」といっても良いでしょう。
言葉では判っても、なかなかしっくりこないかもしれませんね。
ということで、具体的な曲のコード進行で、そのサウンドを確認してみましょう。
譜例1)を見てください。
これは有名なスタンダード曲、「Just Friends」の冒頭の5小節です。
コードだけみると、3,4小節目のBbm7-Eb7はツーファイブのように見えますが、これはツーファイブではありません。両方がともにサブドミナントマイナーの機能を持っています。
先の「サブドミナントマイナーとは?」という質問の答えに合わせるなら、これらのコードは、「同主調であるFmスケール上にあるサブドミナントの働きを持つコード、Bbm7とEb7をそこから借用してきて、Fメジャーのキーの中で使っている」ものであり、これらのコードは、「同主調であるFmキーから借用してきたコードで、借用先のFメジャーのキーの中でもサブドミナントの働きを持つコード」です。ただ「Fメジャーキーの中でのサブドミナントのコードとはその成り立ちが違うので、マイナーキーから借用してきたコードということで、サブドミナントマイナーという呼び方をする」という仕組みです。
おわかりいただけましたか?
もう一例、上げておきましょう。
これらの、トニック〜サブドミナントの2コードによる動きは、曲のイントロやエンディングなどでよく使われるものですが、これらはすべてサブドミナントの典型的な使用例かと思います。
a,b,cは、ここまでに出た、Ⅳm7、bⅥMaj7、bⅦ7です。
d) のDbMaj7は、実はマイナーキー上には現れないコードですが、そのコードトーンに、bⅥにあたるAbの音があるので、これもサブドミナントマイナーと同じように考えていいと思います。
e)のDb7は、トニックのCに解決するドミナントコードG7の裏コード(これは次回の、第5回後半「セカンダリードミナント」で解説します)に当たる、Db7とも考えられますが、それよりは、d)のDbMaj7のブルージーな変化系コードと考えた方が良いと思います。
もう一つあるマイナーキーのサブドミナントコード、Ⅱm7(b5)は、僕の経験上、単独でサブドミナントマイナーという働きで現れることはほとんど無く、その多くの場合が、Ⅱm7(b5)-Ⅴ7という、ツーファイブの形で現れます。
最後に、それぞれのコードのスケールを考えておきましょう。
サブドミナントマイナーは、マイナーキーからの借用したコードですから、そのスケールもそのまま、マイナースケールの時のスケールを当てはめれば良いということです。
以下のようになります:
Ⅱm7(b5) Loc
Ⅳm7 Dor
bⅥMaj7 Lyd
bⅦ7 Mixo
bⅡMaj7 Lyd
bnⅡ7 Lyd b7
では次回の第5回後半、「セカンダリードミナントとリレイテッドⅡマイナー」、お楽しみに。