
ジャズ入門講座・ソロ編の第6回です。
最近何人かの方から、以下のような質問をいただいたり、ソロに関しての悩みを伺いました。
○コピーしたものは弾くことが出来ても、即興で自由に弾くことが出来ません。
○ソロが取れるようになるには、ウォーキングのリズムパターンやソロをひたすら練習して、キーも変えて、引き出しを増やしていくという感じになるのでしょうか?
○理論はしっかりと学んだ方が良いのでしょうか? ベースは和音楽器ではないので、理論に関して、そのイメージが掴みにくく感じています。
この入門講座ソロ編ではここまでの5回の講座で、「音をどのように選ぶのか」「えらんだ音を、どのようなリズムに当てはめるのか」「事前にフレーズを仕込んでおいて、それをソロに当てはめる」「モチーフをデベロップさせる」「ガイドラインを使ってソロを取る」というようなお話をしていました。
しかしこういったことは、ソロがそこそこ取れるようになった人には、「ああ、そういうことね!」と判ってもらえることなのでしょうが、「もう何年もベースを弾いているが、即興で演奏することはさっぱり出来ない」という人、そう、ソロはもちろん、ベースラインですらなにをどうすれば思いついたことを自由に弾けるようになるのか判らないという人には、「音を選ぶ? リズムに当てはめる? ガイドライン? モチーフデベロップ? なんのこっちゃ、それ?」ですよね。
同じことが理論にもいえます。
「トニックやドミナント、ドリアンやミクソリディアンは知ってます。でもそれをどうやってソロに使うんですか?」というところで、闇にはまってしまっている方も多いかと思います。
ということで、その辺りの糸のもつれを、ほんのちょっとほどこうというのが、今回の講座の主題です。
○ジャズの即興は、外国語の勉強と同じ
即興演奏というのは、イメージとしては外国語の勉強と同じかと思います。
例えば、最初に上げた質問の、「ウォーキングのリズムやソロをひたすら練習する」というのは、外国語における単語を覚えることと似ているように思います。
ベースのどの位置に、なんの音があるかということや、またコードに対しての使用可能なスケールというようなものも、すべては音楽における、単語のようなものかもしれません。
そして単語を知らなければ、やはりどうやっても、外国語を喋ることは出来ません。
が、単語だけでは、会話にならないのも事実。
先ほどの、「コピーしたものは弾ける」というのは、文章を丸暗記していることと似ているのかもしれません。
こんな感じでしょうか?
ニューヨークで買い物しているときに、あなたが、
「How much is this?」
と尋ねると、店員さんが普通に、
「This is $50.」
と答えてくれて、あなたが、
「OK! I will buy it.」
と答えれば、問題なく買い物は終わります。
が、店員さんが、
「If you will buy other one together, we will give you a discount!」
と突然言い出しても、覚えたフレーズを喋ることしか出来ないあなたには、この店員さんが何を言っているのかさっぱりですよね? そして、ディスカウントを受けることなく、50ドルでその商品を買うことになります。
これを演奏に当てはめるなら、事前にコピーしたものをそのままそっくりに演奏しているときに、ふと周りのみんなが、「いま凄く盛り上がってるから、そうちょっとこのギターソロを伸ばそう!」と目で合図しあっているのに、あなたは一人、もう次のセクションに行ってしまっているというような状況。
なかには突撃ストリート英語で、手振り身振りを交えての適当な英語で会話できてしまう人もいます。
音楽で言えば、「理論なんて知らないし、スケールなんて関係ない!」という人ですか?
もちろんそれでも演奏は出来るでしょうが、その程度の語学力の人がしゃべる内容というのは、大体想像がつきますよね。
どんな良い内容の話をしたいか、あるいはしたくないかは、その人のモチベーションに依りますが、一つはっきり言えることは、良いメンバーと自由に深い話が出来るようになると、本当に会話は楽しいものです。
○では話すためにどうすれば良いか
「ジャズがうまくなりたければセッションにたくさん行け!」と、よく言われます。
これはある一面、当たっています。
外国語も、うまくなりたければ、とにかく会話をすることと一緒ですね。
でもやはりその前に、単語や文法をある程度勉強していないと、突然会話は出来ません。
たとえば日本人なら、まったく英語が話せないとしても、少なくとも6年間、中・高校で英語の授業や試験はあったでしょうし、それでなくても街中には英語があふれています。
そんな状況ですから、突然アメリカ人から話しかけられても、しどろもどろながらも、最低の会話は成立するかもしれません。
でも、それがロシア人やクエート人ならどうでしょう?
ましてや彼らが全く英語を話せないとしたら、これはもう完全にお手上げですね。
ということで、やはり最低限の単語や文法は知っている必要があります。
○音楽における最低限の単語や文法とは?
最低限という意味ではそれは、例えばコードネームを見て、ルートノートはマストとして、さらにはその構成音が何で、ベースのどこを押さえれば、そのそれぞれの音が出るかということを知っているということかと思います。
僕が中学生の時にコピーバンドを始めて、そここら数年経った高校生の頃は、きっとこの程度だったように思います。
その頃の自分を思い出すと、コピーしたものは弾ける、というのが、このレベルでしょうか。
CMaj7やEm7とあれば、そのルートのCやEがベースのどこにあるか、さらには、それらのコードの構成音くらいは判っている状態ですね。
「まるごと文章を覚えて、それだけを話す」というのがこの段階かもしれません。
ただこれでは、先ほども挙げたように、周りの状況が変わると、お手上げになってしまいます。
そこで、この入門講座のこれまでの回で説明したことが有効になります。
○単語や文法をどのような活用するか
ではその先に進めない、すなわち「コピーは出来ても、即興では変化させられない」や、「コードネームやスケールは判っても、ソロが取れない」という人は、何をすれば良いのでしょう?
ということで、ここでスタンダードで有名な「枯葉」を使って考えてみましょう。
この曲は、キーがGmですから、G、A、Bb、C、D、Eb、Fの音が基本となることはおわかりですね。
ということで、入門講座第1回でお話しした「音の選択」ですが、そこで触れたように、ルートのGの音を選んだのではおもしろくありませんから、
1)1~8小節目はAとBbを選びます。
2)9~16小節目は、それにDとEbを加えます。
3)17~32小節目にはさらにCの音を加えます。
理論をちゃんと勉強すれば、この「枯葉」に出てくるすべてのコードで、このA、Bb、C、D、Ebの音は使用可能だということが判ります。(コードに依っては、それらのどれかの音が、長い音価では使えないという場合もありますが)
理論がしっかり判ってくると、そういったことが即座に判断できるんですね。
これらは「コモンノート:といって、それぞれのスケールに共通する音ということで、入門講座ソロ編の第4回でお話しています。
また17~24小節目は、モチーフデベロップメントです。これに関しても、何度もこの講座で触れましたね。
さて譜例1)を見てください。
1)~3)で選んだ音を使って、適当なリズムに当てはめています。
リズムはまさに適当。これでソロとして成立していまいます。
○まとめ
結論からいうと、即興演奏というのは、どんな音を選んでも、自分にその音が心地よく聞こえている限りは、すべて正解と言えます。またリズムもしかり。
ただ、この「枯葉」で「B」の音を心地よく聞こえるように使おうと思うと、かなりの高度な知識や耳が必要になります。そもそも「B」は、キーにも、それぞれのスケールにもない音ですからね。
ですので、最初は、そのキーやスケールにあった音を使うというのが、無難な選択となります。
その無難な選択をするために、コードネームやその構成音、アルペジオ、スケールといった、語学でいうところの単語といえるようなものを知っておく必要があるということです。
「本(book)」を指さして、もし「book」を知らなくても、「それ(this)」といえるならまだしも、それを「猫(cat)」と言ってしまうと、さすがに会話は成立しませんよね。
そして、とりあえず正しい単語を最低限覚えたら、あとはもうそれを適当に使えば良いのです。
で、実際の会話の時に、なかなかその使い方が判らないという状態なら、まずはその単語が文章としてはまるように、文を書いてみることです。
いかがでしょうか?
皆さんも枯葉を、先の1)~3)の音だけを使って、いろいろソロを考えてみてください。
そんなところから、もつれた糸をほどいていってもらえたらと思います。
頑張ってくださいね!