
先月からスタートした新しいコーナー、「ベーシストのための入門理論講座」の第2回目です。
前回は、コードネームの意味やその構成音、そしてダイアトニックコードとそこに現れる各コードの機能についてお話ししました。
ここまでですでに「?」という方は、匿名で大丈夫ですから、遠慮無くサロンにご質問くださいね。匿名で質問できるところも、このサロンの利点かと思います!
さて今回の講座では、調合や5度圏(Cycle 5th=サイクルフィフス)、平行調、同主調のお話をしましょう。
1)調合とは?
譜面を読んだことがある方なら、当然、その譜面の一番最初あたりの、拍子記号のすぐあとに、フラットやらシャープがいくつか付いているものがあるのにお気づきかと思います。
「なんであんなものが付いているのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょうし、それが調号であるということを知っていても、それを見落としていて、曲が始まってしばらく経ってから、「あっちゃー!」と気づく、なんて失敗をされた方もいらっしゃるでしょう。
かくいう私も、ベーシスト人生で何度もその、「あっちゃー!」を経験した一人です。
まずはこの、譜面の一番最初に書いてあって、本当に重要な「調合」に関して、説明しましょう。
皆さんはいわゆるメジャー、日本語でいえば長調と呼ばれるものの、その各音が一体、お互いにどんなインターバルで並んでいるかご存じですか?
ちなみに、この「音のインターバル」に関しては、第1回目の講座で説明しましたので、「?」という方は第1回目の講座を読んでみてくださいね。
ではわかりやすくするために、Cメジャースケール、言い換えればハ長調、ピアノでいうところの白鍵のみでのスケールで考えてみましょう。
その構成音は
C,D,E,F,G,A,B
です。(譜例1)
その各音のインターバルは
CとD 長2度(全音)
DとE 長2度(全音)
EとF 短2度(半音)
FとG 長2度(全音)
GとA 長2度(全音)
AとB 長2度(全音)
BとC 短2度(半音)
です。これを並べて書くと、「全全半全全全半」という並びになります。
ピアノを見てもらえば判ると思いますが、CとD、DとE 、FとG、GとA 、AとBという、2つの白鍵の間にはそれぞれ、C#(D♭)、D#(E♭)、F#(G♭)、A#(B♭)という黒鍵がありますよね。
ところが、EとFおよびBとCの間には黒鍵がありません。
このことで判るように、全音とは、言い換えれば、2つの半音から出来たインターバルといえます。
このようなインターバルで並んでいる7つの音のスケールを、「メジャー」ないしは「長調」と呼んでいます。
では、起点となるルートノートが、Cの代わりにFとなるとどうなるでしょう?
たとえば、Fを起点として、先ほどのCメジャースケールの音(ピアノでいうところの白鍵だけの音)で並べてみると、
F,G,A,B,C,D,E
となります。
この各音のインターバルは、先ほど同様、
FとG 長2度(全音)
GとA 長2度(全音)
AとB 長2度(全音)
BとC 短2度(半音)
CとD 長2度(全音)
DとE 長2度(全音)
EとF 短2度(半音)
となりますね。これを先ほど同様に並べて書くと、「全全全半全全半」となって、本来のメジャースケールとは、全音と半音の位置が変わってしまいます。
そこで、これを調節するために、4番目のBの音を半音下げることによって、本来の並び、「全全半全全全半」に変える必要があるわけです。(譜例2)
すると、Fのキーの曲を演奏する場合、このBの音には常に「♭」が付いている必要があるわけです。曲中で、そのBの音が出るたびに、その音に「♭」という臨時記号を付けるよりは、譜面の一番最初にそのBの位置に「♭」を書いて、「この曲のキーはFなので、譜面上、いついかなる時にBの音が出てきても、その音はB♭になりますよ」ということを表したのが、この調号という表記なのです。
おわかりいただけましたか?
次に、12音すべてのキーに関して、どの音に「♭」や「#」を付けて、そのルート音から見てのメジャースケールの並びにするかを列記しておきます。
C: 一切なし
D♭:♭が5つ(D♭、E♭、G♭、A♭、B♭)
D:#が2つ(F#、C#)
E♭:♭が3つ(E♭、A♭、B♭)
E:#が4つ(F#、G#、C#、 D#)
F: ♭が1つ(B♭)
G♭:♭が6つ(G♭、A♭、B♭、C♭、D♭、E♭)
G:#が1つ(F#)
A♭:♭が4つ(A♭、B♭、D♭、E♭)
A:#が3つ(C#、 F#、G#)
B♭:♭が2つ(B♭、E♭)
B:#が5つ(C#、 D#、F#、G#、A#)
各キーのメジャースケールを、どれも「全全半全全全半」という並びに整えるためには、上記のように、それぞれの音に「♭」や「#」を付ける必要があります。
そして、曲中に、いちいちその音に臨時記号を付ける手間を省くために、譜面の冒頭でそのことを表記しておくというのが、この「調号」というシステムなのです。
2)5度圏(Cycle 5th=サイクルフィフス)
各きーの、どの音に「♭」や「#」が付くかは、上に書いたとおりです。
次に、わかりやすくするために、その「♭」や「#」が付く音の数の、少ないものから順に並べてみましょう。(譜例3)
a)「♭」が付くキー
C: 一切なし
F: ♭が1つ(B♭)
B♭:♭が2つ(B♭、E♭)
E♭:♭が3つ(E♭、A♭、B♭)
A♭:♭が4つ(A♭、B♭、D♭、E♭)
D♭:♭が5つ(D♭、E♭、G♭、A♭、B♭)
G♭:♭が6つ(G♭、A♭、B♭、C♭、D♭、E♭)
b)「#」が付くキー
G:#が1つ(F#)
D:#が2つ(F#、C#)
A:#が3つ(C#、 F#、G#)
E:#が4つ(F#、G#、C#、 D#)
B:#が5つ(C#、 D#、F#、G#、A#)
ここで、ひょっとしたら、以下のような疑問を感じる方がいらっしゃるかもしれませんね。
「なんで、C#とかD#というキーは無いの?」
もちろん、理論上は可能ですが、たとえばC#というキーを想定した場合、そこに付く調号は「#」が7つになります。しかも、E#やB#というような音が出てきます。だったら同じルートの「D♭」として、「♭」が5つ付くだけと考えた方が、演奏も楽ですよね?
同じく「D#」だと、「F##」「B#」「C##」なんて音が出てきます。
これも、まったくもって読みづらい!
ということで、そんなこんなを合理的に考えて、そんなキーは、たとえ理論上は可能でも、だれも使わないということなんです。もちろん場合によっては、そんな譜面もあるかもしれませんが、少なくとも普通のジャズやフュージョン、ポップスやソウルのような音楽をやっていて、そんなキーに出会うことはまずないといって差し支えないでしょう。
さてここで注目していただきたいことがあります。
例えば「♭」が一個ずつ増えていくときの、そのキーの変化に着目してみてください。
C→F→B♭→E♭→A♭→D♭→G♭
となります。
これを、ルートノートの動きという観点から見ると、実はドミナントモーションの連続であるといえます。
もう少し具体的にいうと、例えばキーがFの時は、そのドミナントはC7となります。
すると、C7→Fというのがドミナントモーションとなりますね。
同じく、キーがB♭の場合、そのドミナントはF7ですから、F7→B♭がドミナントモーション。
以下同じくそのように考えていくと、上の動きは、ドミナントモーションの連続といえます。
そのことをさらに「#」が付いている各メジャースケールにも拡大すると、この連鎖はさらに、
G♭(=F#)→B→E→A→D→G→C
という流れとなり、その場合は「#」が1個ずつ減っていくという流れになりますが、同じく、ドミナントモーションが連続しているというルートノートの動きと同様になります。
これをぐるっと一週させるような円で表したものを、「Cycle5th(5度圏)」と呼びます。
その図は、ここでは割愛させていただきますが、いろんな理論書の、その一番最初当たりにありますので、目にした方も多いかと思います。
で、この5度圏というのは、実はベーシストにとってはとても意味があるものなのです。
というもの、ベーシストはまさに、様々な楽曲においては、そのドミナントモーションでのルートの動きを担当するパートです。そんなことですから、この5度圏の動きを、その音楽人生で、他のパートのどの楽器よりも頻繁に演奏することとなるからです。
ですから、逆にこの5度圏の進行がしっかり頭に入っていれば、たとえば「このセブンスコードがドミナントモーションで解決すれば、どのルート音に進行するか」とか、「今いるキーならば、ドミナントモーションでトニックに解決する場合、どのドミナントセブンスコードを選べばいいか」といったことが、瞬時に判断出来るからです。
ですので、ベーシストの皆さんは、この5度圏の動きをしっかり頭にたたき込んでおいてくださいね。
もちろん、譜面を読むときに、たとえば「調号が5つだから、この曲のキーはD♭だな」というようなことも、瞬時に判断出来るようにしておくことも肝心ですね。
3)平行調、同主調について
a)同主調
こちらの方がわかりやすいので、こちらから説明しましょう。
これは簡単です。例えばCメジャーというキーに対しての同主調は、Cマイナーです。
どうです、簡単でしょ?
ようするに、基音となるルートの音が同じで、そのメジャーとマイナーのキーは、お互いに同主調となります。
b)平行調
先に、メジャーキーにおいての各音のインターバルは「全全半全全全半」という間隔で並んでいると書きました。
ではマイナーキーでは、それはどのようになっているでしょう?
例えばCマイナー(ナチュラルマイナー)を例に挙げてみます。
(マイナーキーには「ナチュラルマイナー(自然的短音階)」「ハーモニックマイナー(和声的短音階)」「メロディックマイナー(旋律的短音階)」の3種類がありますが、これに関しては、後日、別の講座で解説したいと思います。)
その構成音は、
C,D,E♭,F,G,A♭,B♭
です。この各音のインターバルを列記すると、
全半全全半全全(譜例4)
となります。
この並びと、メジャーの「全全半全全全半」を見比べると、実は以下のようなことが判ります。
メジャースケール:全全半全全全半
マイナースケール: 全半全全半全全
すなわち、メジャーの6番目の音からの並びは、マイナーのルートからの並びと同じになるということなんですね。
それをCメジャーで考えると、その構成音は
C,D,E,F,G,A,B
です。その6番目の音というとAです。
ですから、CメジャーをAの音から並べて書くと、
A,B,C,D,E,F,G
この各音のインターバルを列記すると、
全半全全半全全
そう、まさにAマイナーとなるわけです。(譜例5)
このように、メジャーと、その6番目の音から始めたマイナーは、当然その構成音は全く同じであり、さらにそのそれぞれが、メジャーおよびマイナースケールを構築する音の並びになっているということです。この関係を平行調といいます。
ではここで質問です。
Cマイナーと、その構成音が全く同じとなるメジャーキーは何でしょう?
答えはE♭メジャーです。
先に、メジャーキーの6番目の音から始めたマイナースケールが、そのメジャーキーの平行調といいましたが、この場合はその逆を考えればいいわけですから、マイナーキーの3番目の音から始めたメジャーキーが、そのマイナーキーの平行調となるわけですね。
例として、Cマイナーで説明しましょう。
Cマイナーの構成音は、
C,D,E♭,F,G,A♭,B♭
ですから、これをその3番目の音、E♭から並べてみると、
E♭,F,G,A♭,B♭,C,D
まさに、E♭メジャーとなります。(譜例6)
この場合も、CマイナースケールとE♭メジャースケールは平行調ということになります。
以上をまとめると、
あ)メジャーキーと、その6番目の音から始まるマイナーキーは平行調
例:CメジャースケールとAマイナースケール
い)マイナーキーと、その3番目の音から始まるメジャーキーは平行調
例:CマイナースケールとE♭メジャースケール
いかがでしょうか。おわかりいただけましたか。
これはベーシストに限りませんが、例えば
「何のメジャーキーと何のマイナーキーが平行調の関係にあるか?」
や、
「このメジャーキーの平行調は何?」とか、逆に、「このマイナーキーの平行調は何?」といったことがすぐに判るように、頭のトレーニングをしておくことが大事だと思います。
ではまた次回の講座をお楽しみに!