
さてさて、世の中、大変なことになってきました。
昨日、かなりの県で、緊急事態宣言は解除されたとはいえ、外出や人との接触は可能な限り少なくしてほしいとのこと。
関東圏では、まだまだ解除は先のことのようです。
そういえば最近、家でぼんやりと過ごしているときにふと思ったのは、「え、これって失業やん! だって2ヶ月、ほとんど仕事してないし、収入がない!」
そう、これ、失業ですよね? あるいはもう少しよく言えば、「引退」、ん、「隠居」?
なのに、こんな自動車税や光熱費、国民年金保険料の支払いは容赦なく来ます。
実際、特別定額給付金なんて、この自動車税で「さよなら~!」ですもんね。
「持久戦も、あまりに長期戦になると、さすがになぁ…」と感じる今日この頃。
ということで、今回の四方山コラムは、コロナ禍おける現状、及び今後の日本のジャズシーンについて書いてみたいと思います。
とはいえこの先、コロナがどのように収束するのか、あるいは全く収束しないまま、彼らととりあえず付き合っていくという方法しかないのか、そのあたりは専門家でも判らないと言うことでしょうから、あくまで僕の意見も、この先、どうなるか全く判らないという前提の元で、あくまでなんとなくのイメージでしか語れないと言うことをご了承ください。
ということで、現状ではやはり、かなりネガティブな方向でのお話となります。
○僕のコロナの認識(大体、こんな感じであってますかね?)
当初、このコロナは、今までにもあったインフルエンザ程度だろうと甘く見ていたアメリカなどでは、驚くような被害を出しています。
インフルよりやっかいなのは、その感染力の強さと潜伏期間の長さ、そして、全く無症状の人がいる一方で、一瞬にして重症化し、そうなってしまうと、その多くの人が、高度医療を持ってしても対応できないというような、このコロナの特殊性が要因かと思います。
特に、重症化した患者のその末期には、免疫状態が極めて異常更新状態になるというような、そういったメカニズムも、未だはっきりしていないということもあるのでしょう。
その意味で、的確な治療法も治療薬も、未だありません。
現状では、一度感染すれば、全くの無症状で済むのか、軽症とは呼ばれるものの、ガラスが喉の奥で割れたような激痛や頭痛、吐き気といった症状と数日闘う(しかも完全に隔離された環境で!)という状況で済むのか、はたまた集中治療室に送られ、運が悪ければそのまま誰にも見送られずに火葬場行きとなるのか、それはもう運を天に任せるしかないという恐ろしい状況です。
さらには、ワクチンに関していうと、もしうまく開発できても、それまでには数年かかるだろうとのこと。でも、実際は、天然痘以外の感染症に関しては、ほとんどワクチンでは抑えきれないというのが現状のようです。エイズしかり、エボラ出血熱しかり、MRASやSARSも。
こんなことを知ると、やはりどう考えても、世の中がコロナ以前(以下B.C.=Before Corona)に戻ることは、もうないのではないかと思わざる終えません。
みんなでジャズクラブに行き、お酒を飲みながら心地よいジャズに酔いしれた、あの日々です。
あるいは、素晴らしいミュージシャンのコンサートを、国際フォーラムやオーチャードホールで見た日々、さらには夏になれば野外で何千人も集まるフェスティバルが開催されるといったあの日々。
本当に暗澹たる気分になります。
が、そんなことを言っていてもしょうが無い。この先はそれがもう日常なんだと想定して、では一体どんな風に、ミュージシャンとして、このコロナと付き合っていくことが出来るのかということを模作するしかないのでしょう。
ということで、今回のコラムは、コロナ以降(以下A.C.=After Corona)の日本のジャズシーンにおいて、どんな活動が可能なのか、あるいは不可能なのか、そもそもシーンはどうなっていくのか、というようなことをいろいろ書いてみようと思います。
もちろん、未来は僕の想定よりずっとましであってほしいという希望はあります。
ですので、これは2020年5月の、ある意味、備忘録的に書きたいと思います。「ああ、あの頃はそんなネガティブな未来を想定していたんだ! そうじゃなくて良かったね。」と言えるように。
1)ミュージシャンは2極化するのではないか。
まず仕事としての、それもミュージシャンサイドから見た状況を考えてみます。
現状では、演奏に関して、仕事として出来ることといえばオンラインでの配信しかないのではないでしょうか?
YouTubeやFace Bookには、自宅で一人で収録した動画や、あるいはそれを何人分か集めて編集したような動画がたくさんあります。
実際僕も、ブルーノート東京オールスターオーケストラでのそういった動画に参加させてもらいました。数万件の視聴があったようで、うれしい限りです。
また、既存のジャズクラブなどを使っての、そこに何人かのミュージシャンが集まって収録するというような形態も見受けられます。
ただどちらの場合も、収入にはほとんど結びつかないように思います。
すくなくとも僕がやったそのオーケストラの動画は、ギャラというようなものは発生していません。メンバー全員の熱い想いが、手弁当であの動画を作らせたということですね。
またジャズクラブからの配信などでは、当然無観客ですので、投げ銭というような方法を取っているものも、最近多く見られます。でも投げ銭ですから、一体どれほどの収益を上げているんでしょう?
もう一段進んで、事前にインターネットでチケットを販売して(その集金方法はいろいろあるそうです)、その購入者にパスワードを教えて、限定での配信を見ることが出来るというような方法もあるようです。こちらの方なら、ある程度の収益は見込めるかもしれません。
が、いずれにしても、これで以前のようなライブ収入が入るとは、到底思えません。
だってB.C.の時からすでに、無料のYouTubeで素晴らしいミュージシャンの凄い演奏を、ごまんと見ることが出来るのですから。
僕のイメージとしては、ライブの配信が定着しても、Apple Musicなどと一緒で、月額1000円くらいで「いろんなライブ配信が見放題」程度の価格設定しか無理だろうと思います。
一つのライブ、しかも1ステージ分くらいで、例えば2000円(これが大体、僕たちジャズミュージシャンの、ライブでのチャージ設定と同額でしょう)というような額を払ってまで配信を見るという人はほとんどいないと思います。
しかももし仮にそんな高い設定でも、例えばカルテットくらいの人数の編成の場合、50人くらいが見てくれないと、採算が合いません。
いかがでしょう、それでもあなたはその配信、見ますか? 見るとすれば、誰の配信なら、あるいはどんなメンバーによるライブ配信なら見ますか?
ということで、ここでミュージシャンの2極化が生まれるような気がするのです。
そんな高い設定でも、例えば渡辺貞夫さんや日野皓正さん、小曽根真さんというような本当に著名なミュージシャンの配信なら、「ちょっと高いけど見よう!」という人も、50人はくだらないとは思います。
最近毎日、小曽根真さんが自宅からのピアノソロの演奏を配信されていますが、万単位の視聴だそうですね。もちろん無料だからでしょうが、彼の演奏なら、そこそこ払っても見る価値があります。
でも、それ以外の、それほど著名でないミュージシャンの場合、さて、何人の人が見てくれるか。
ということで、配信で採算を取れるであろう人は、そういった、本当に一握りのトップアーティストに限られるんだろうと思います。
一方、B.C.でもその流れは顕著でしたが、アマチュアミュージシャンの、特にそのセッション熱は、きっとA.C.でも続くんだろうと思います。
ですので、例えばいま、オンライン飲み会がはやっているように、様々な環境が整えば、リアルタイムでセッションくらいは出来るのではないかと思いますので、アマチュアのミュージシャンは、そうやって、以前のように、演奏を楽しみことが出来るようになる日も、そう遠くはないと思います。
ということで、結論から言うと、ジャズシーンは、もしこのまま配信という方法がその主流となった場合、そこでビジネス的に成立するのは、ほんの一部の著名なミュージシャンのみ。そしてそれ以外は、本当にその他大勢のアマチュアジャズミュージシャンという、2極化となるような気がします。
B.C.では、良い意味でも悪い意味でも、誰でもCDを出せたし、ジャズクラブでライブも出来ました。そこでは、演奏技術や表現力、知識といった、いわゆるジャズにおける実力の差はもうほとんど関係なく、重要なことは、とにかく集客力というような状況でした。
言い換えれば、プロもアマチュアも関係なし、とにかく客を集められる人なら誰だってお店をブック出来るという状態でしたが、そういったことが一掃されるのかも入れません。
もっといえば、一流半や二流のプロミュージシャンがすっかり淘汰されるということでしょうか。
もちろん、ライブでの集客力のある人は、きっと配信でも、そこそこ集金できるのかもしれませんが。
2)ジャズクラブはほとんど無くなるのではないか
さて、では一方、僕たちが出演させてもらっていた、ジャズクラブはどうなるでしょう?
緊急事態宣言解除後の行動指針のようなものを見る限りでは、ジャズクラブのような形態のお店は、まだまだその解除の対象とは言えないようですね。
三蜜を避けるということで、一定のソーシャルディスタンスを取り、客同士の対面を避け、換気を徹底させるなんて言い出すと、それをクリアするような、あるいはそれで営業が成り立つようなお店は、ほとんど無いと思います。
どのように考えても、ジャズクラブが生き残っていく方策というのが、残念ながら僕には見えません。
もちろん、家賃や人件費というような固定費がかからないお店は、かろうじて生き残るかもしれません。
たとえば自宅の一部をお店仕様にして、バイト君一人くらいでなんとか回せるような小屋なら、一晩10人くらいの客が、2メートル間隔で座っているような状況でも、ライブは開催できるかもしれません。
もちろんチャージは、B.C.の1.5倍くらいの価格設定で、しかもそのほとんどをミュージシャンに渡すというような条件でないと、ミュージシャンも採算が合いません。
でもそんな特殊事情が許されるお店なんて、すくなくとも関東圏にはほとんどないでしょう。
どのお店も、きっと凄い高額な家賃を、毎月払っているでしょうから、そんな客席ガラガラな状態が毎日続いて、やっていけるわけがありません。
ということで、結論としては、本当に残念ですが、ほとんどのジャズクラブは、早晩経営が立ち至らなくなると思っています。
3)ではどうすれば良いのか?
実は、もうこのコロナで家にこもるようになってから2ヶ月あまり、ずっとこのことを考えていますが、全くアイデアが浮かびません。
もちろん、ほとんどすべてのジャズミュージシャンが同じことを考えていると思います。
そこで、配信という手段も出てきたのでしょうし、またオンラインでのレッスンということを始めているミュージシャンもいるようです。
ただ、配信は、先ほども言ったように、仕事としては成り立っていません。
また多くのプロミュージシャンがオンラインレッスンに流れても、それを必要とする側のパイは限られています。それに、もうB.C.からそういうことをやっている人も多いですからね。
僕の場合は、幸い、いわゆる黒本と呼ばれている、ジャズ・スタンダード・バイブルなどの印税があります。ことこんな事態になって、つくづく、印税という収入手段を持っていて良かったと思います。
また、このサロンのように、インターネットで、会費制の会を持つことによる収入もあります。
これも、始めたのは昨年の2月頃ですが、これも今となっては、本当に始めていて良かったと思います。
レッスンに関して言うと、僕はアメリカからの帰国後30年あまりずっと、大学や専門学校でやってきました。が、2年ほど前、そのほとんどを止めました。というのは、ここまでインターネットが発達し、教える側と教わる側がリモートで出来るような状況になれば、例えばスタジオ代や移動費を掛けて、その両方がどこかの場所で落ち合ってレッスンをするというのは、あまりに無駄が多いと感じたからです。
特に音楽大学などは、生徒が支払う高額な授業料の、そのほとんどが設備使用料です。
優秀な教師陣というのも、その設備の一環と考えれば、それを徹底的に利用すれば元は取れるのですが、残念ながら多くの生徒が、それほどのモチベーションを持っていませんでした。
そんなことで僕は、直接の対面レッスンというのには限界を感じていました。
時間を取られる割には、収入面でもモチベーション面でも、ちょっとしんどいですからね。
そして3年前、ついに意を決してすべてを止めてしまった次第です。
ですのでこれもまた早晩、無くなるんだろうと思っていたのですが、その流れがこのコロナで一気に加速するように思います。
さらに付け加えると、いま危惧しているのは、それでなくとも少子化で大変だった音楽大学のその経営が、このコロナ禍で本当に切迫するのではないかということです。きっと、ばたばた、ジャズコースを閉めるか、もっと言えば、大学そのものが倒産する可能性もあると思います。
話はされましたが、そんなことで、いま浮かぶアイデアというのは、やはりどれだけインターネットを駆使してリモートで仕事ができるか、あるいはデジタル化したコンテンツを配信出来るか、というようなことでしょうか?
バイブルの成功は、これはもうほんとうに、見事に隙間をねらったヒット作という感じです。
誰もが判っていたのに手を付けなかった隙間に、僕が「ポン!」と商品を出した、そんなイメージなので、残念ながら柳の下にドジョウは2匹、いないようです。
ま、それはさておき、そんなアイデアしか思い浮かばないのですが、そのいずれもが、生演奏というのはそぐわないのかなという気がします。
ジャズのアンサンブルをリモートでやったってねぇ。
やっぱりジャズは、目の前で、しかもつばや汗がドンで来るような至近距離で、その生の音のシャワーを浴びるのが良いに決まってますからね。いや、まさに、このコロナには最も向かないものの代表格かもしれません。
結局どうすれば良いのか、全く暗闇の中にいるというのが、きっと僕を含め、ほとんどすべてのジャズ関係の方の現状かと思います。
もちろん、音楽はなくならないでしょう。
でも、ジャズのような、生演奏を楽しむという状況は、少なくとも当分は無理でしょう。
そしてこのコロナがもし収束したとしても、そこには既存のジャズクラブはほとんどなくなっているような気がします。
さらには、先ほども言ったように、プロとして生き残ることの出来るのは、本当に実力があり、またその名も知れたようなトップの人のみかもしれません。
これが、このコロナによる淘汰だと言ってしまえばそれまでですが、それにしても現実は厳しすぎます。
それが1年先なのか3年後なのか、はたまた5年後なのか判りませんが、いつの日かこのコロナに対する対策がしっかり確立し、またみんなが集まってジャズミュージシャンの熱い熱演を、これまたおいしいお酒と食事で盛り上げながら、素敵なクラブで楽しめる日が来ることを切に願っています。
そしてその日まで、自分自身がミュージシャンとして生き残っていられるよう、いまは耐えたいと思います。