Jazz life 対談 ジョン・パテトゥイッチ

サロンのインタビューコーナー、今回取り上げるインタビューは1995年1月号のジャズライフ誌上に掲載された、ジョン・パテトゥイッチとの対談です。
サロンではここまでに、ビクター・ベイリー、リンカーン・ゴーイング、マーカス・ミラーとの対談記事をアップしてきましたが、このパティトゥイッチとの対談が、実は僕にとって、こういった雑誌での対談という経験の中では、もっとも最初のものでした。
残念ながらこの対談が掲載されたジャズライフ誌が手元に無く、ジャズライフの編集部との繋がりも昨今薄くなってしまい、なかなか探す手段がないということで、サロンでの公開もほとんど諦めかけていたのですが、先日この事をジャズライターの早田和音さんに相談したら、なんとわざわざジャズライフ編集部に出向いていただき、そこにあるバックナンバーの中ならこの記事を探し出してくださいました。

本当に感謝しております。改めてこの場を借りてお礼を言いたいと思います。
本来は古い記事から順にこのサロンで公開しているのですが、今回はそういう事情もありましたので、前後して、一番古いこの対談をここで取り上げることとさせていただきます。
ジョン・パテトゥイッチに関しては、これまたサロンのコーナー、「ベーシスト列伝」の第5回で取り挙げていますので、この人のバックグラウンドや、僕から見たベーシストとしての注目点などはそちらの方も読んでいただけると、この対談の内容がさらに膨らむと思います。
ということで、その対談です:
納(以下O):僕らは二人とも、エレクトリックベースとアコースティックベースの両方を弾いているんですが、この2つは完全に別の楽器ですよね。
アコースティックベースなら弓も使わないといけないし、エレクトリックベースなら、さらに僕たちは6弦ベースも弾くので、そのフィーリングも全く違いますよね。
ジョン・パテトゥイッチ(以下J):両立への思い入れは今も昔も変わらない。今回のチック・コリアのツアー(1994年11月のツアー)では、アコースティックベースしか使わないんだけれど、6弦ベースも持ってきて、ホテルの部屋で練習している。
O:逆に、エレクトリックベースだけで3ヶ月も超えるようなロングツアーに出るような場合は、どうしているんですか?

J:いままでにも、そういうようなツアーの場合に1~2ヶ月間、全くアコースティックベースを弾かないときもあった。そんなときに、しばらくずーっとエレクトリックベースばかり弾いていて、突然アコースティックベースを弾くと、妙な感覚になるよね。特に弓は、普段弾いていないと、すぐ弾けなくなる。
O:なるほど。ところで、近々ソロ作のレコーディングの予定はあるんですか?
J:日本に来る前に一枚、レコーディングしてきた。アメリカでは(1995年)2月にリリースされる。
O:どんなメンバーで録音したんですか?
J:今回はブラジル音楽が主体になっている。前作の「アナザーワールド」の延長線なんだよ。
だからブラジルのミュージシャンがいっぱい参加している。
(1995年3月日本発売の、「ジョン・パティトゥッチ・ウィズ・ブラジリアン・フレンズ/ファイン・ミキスチャー」というアルバムです。)
O:全曲、あなたの作曲ですか?
J:ブラジルのミュージシャンが書いた曲もいくつかある。
O:どういった人たちが作曲したんですか?
J:ジョアン・ボスコ(Vo)、ドリイ・カイミ(Vo)、イヴァン・リンス(Vo)。
ジョアン・ボスコが3曲持ってきた。ドリイ・カイミが1曲。後は僕の曲だ。このアルバムでも
、アコースティックとエレクトリックの両方を使っている。
O:いま自分のレギュラーバンドというのはあるんですか?
J:固定しているメンバーは、ジョン・ウィズリー(Kbd)。ドラマーはみんな忙しくて、一定していない。ヴィニー・カリウタ、デイブ・ウェッケル、アレックス・アクーニャ等々。ツアーによって代わる。
O:一緒に演奏するドラマーというのは、ベーシストにとってはとても重要だと思うんですが、例えばヴィニー・カリウタとデイブ・ウェッケルの違いというのは、どういったところにあるんですか?
J:それぞれが聴いてきた音楽も違うし、生まれや育ちや体格、性格も違う。
先ほど挙げたようなドラマー達はそれぞれに独自のスタイルを持っているし、楽器に関しても、熟練した技術を持っている。でも言葉で表現するのは難しいね。
O:例えばパット・メセニーが言っていたのですが、デイヴ・ホランドはビートが前にくるけれど、チャーリー・ヘイデンは凄く後ろに来る。だからアグレッシブは音楽をやりたいときはデイブにお願いし、レイドバックしたタイプの音楽をやりたければチャーリーを呼ぶんだと。
ドラマーも、同じように、それぞれのビートのポイントを持っているでしょ?
J:そうだね。その意味では、ヴィニーやデイブは真ん中だ。というか、実際のところ、彼らはどこにでもポイントを置いて演奏できる。曲次第で、ビートを置く位置を変えられるんだ。
O:じゃあ、どういった基準で、それぞれのドラマーを選ぶんですか?
J:彼らはとても柔軟で、どんな音楽でも出来るけれど、「この曲は誰に向いている」とか、「あの曲は誰にやってほしい」といったイメージが浮かぶ。だから楽曲ごとに選ぶということかな。
例えば、次の僕のアルバムでは、ブラジル人のマイケル・シャピロがたくさん叩いている。
O:日本の音楽事情は大変厳しくて、レギュラーバンドを維持していくというのはとても難しいんです。僕の場合でも、毎回ドラマーが違ったりします。それに、ヴィニーやデイブのようなマルチドラマーは、そう簡単には見つけることが出来ませんし。
J:確かにアメリカは特別だね。LAやニューヨークには、凄いドラマーがゴロゴロいる。
アメリカにも、得意な分野以外は出来ないって人もいるけど、やはり多才で幅の広いドラマーが多いね。
話は変わるけれど、いま実は、室内弦楽楽団のための6弦ベースの曲を依頼されていて、2月にはイタリアに行って演奏することになっている。10分程度の曲で、全部で13の弦楽器に、僕の6弦ベースが加わる。
O:弦楽オーケストラのための作曲法を勉強したことはあるんですか?
J:大学で理論は少しかじったけれど、それより実際自分で作曲する量が増えて、自分の曲や他のミュージシャンのアルバム用にたくさん曲を書いているうちに、クラシックもよく聴くようになった。ここ数年は、もっと大編成向きの曲を書きたくなって、いろいろ研究したんだよ。
それと、今はエレクトリックベースでのサム・ピッキングを研究している。
O:スラップですか?
J:その一種なんだけど、トリルなどに使えるような、親指を往復で引っかける練習をしている。マーカス・ミラーが上手だよね。
O:ヤマハの「ジョン・パテトゥイッチ・モデル」というのが出来たらしいと聞きましたが、それはどんなベースなんですか?
J:僕の名前が付いた6弦シリーズ。もう売っていると思うよ。
O:前の6弦とどこが違うんですか?
J:まず、古いジャズベースのように、ネックがボルトでジョイントされている。
あとは、3つのサウンドがプリセットされたスペシャルプリアンプが搭載されている。
わざわざアンプのところにまで戻らなくても、スラップやソロに適した音を手元で選べる。
ボディの材もとてもいい。昔のフェンダーが使っていたアッシュによく似ている。
トップはメイプル。とても綺麗に仕上がっている。
O:アンプは何を使っているんですか?
J:演奏する音楽に依るけれども、新しいものをいろいろ試すのは好きだね。
ラックを組んでいたこともある。スイッチでコンピューターを操作するようなものとか。
でも常に変わらないのは、アコースティックベースに使っているウォルターウッズ。これからはエレクトリックベースにも使おうかと思っている。
ごちゃごちゃとラックを組むのは飽きたね。
O:僕もウォルターウッズですよ!
J:そう! 僕は、次はもっと出力の大きい物を買おうと思っている。
O:300ワット?
J:いや、750ワットのもの。

O:そりゃ強力だ! でも僕は最近のモデルより、古いモデルの方が好きなんです。
J:僕の使っているのも古いタイプの物だ。
O:チック・コリア・エレクトリック・バンドの初期の頃に、オクターヴァーとかピッチ・シフターみたいなエフェクターを使っていましたよね?
J:アイバニーズのハーモナイザーだね。確かHD-13000だったと思う。
O:でも最近は全くエフェクターを使っていませんよね? 僕はあのアプローチ、好きだったんですが、どうして使わなくなったんですか?
J:僕も昔は好きだった。でもノイズが問題で、製造中止になってしまったんだよ。
他にも似たようなものを探したんだけれど、良い物が見つからなかった。そうだね、また探してみようかな。
O:じゃあ、今はこれといったエフェクターは使っていないんですね?
J:いや、リヴァーブは使っている。でもベースは、エフェクターを多用すると、音が希薄になる危険性があるからね。
O:今はLAに住んでいらっしゃるそうですが、ニューヨークとはどんな違いがありますか?
J:LAの方が仕事が多いね。レコードの他にも、映画、テレビ、ジングル(いわゆるCM音楽ですね)など、仕事は山ほどある。
O:え、ジングルもやるんですか?
J:面白いよ。すごくいい作曲家と仕事が出来る場合もあるからね。
O:日本の場合、ジャズを志す若者はみんな、ニューヨークに行きたがります。
J:ニューヨークで仕事を取るのは至難の業だよ。以前に比べてジャズ・クラブも減ったし、ペイも少ない。音楽で食べていくのは大変だ。

僕も随分仕事をしたけれど、最近はちょっと余裕が出来てきたから、仕事や練習以外の時間も大事にして、もっと生活をエンジョイしなくちゃね!
と、まあ、こんな対談でした。

今読んでみると、なんとたわいも無い雑談なんだと。いまならもっと突っ込んで訊きたいことはいっぱいあるんですが。
きっと初めての大物ベーシストとの対談ということで、緊張していたのかもしれません。
とはいえ、このときは二人とも35歳。そう、彼は1959年生まれで、僕は1960年生まれですからほとんど同じ歳です。ちなみにマーカスも1959年生まれですね。
同じ歳の彼が、「最近はちょっと余裕が出来てきたから、仕事や練習以外の時間も大事にして、もっと生活をエンジョイしなくちゃね!」だって。
この頃の僕はというと、練習している暇すら全然ないほど仕事に明けくるれているのに、収入が一向に上がらない状態。要するに単価があまりに低かったんですね。
ですから当然、生活にも全く余裕はありませんでした。
かたや、チック・コリアとワールドツアーですから、勝負にもなりません。

でもそのときから25年、僕もやっと「最近はちょっと余裕が出来てきたから、仕事や練習以外の時間も大事にして、もっと生活をエンジョイ」しようと思った矢先の、このコロナ。
ほんと、人生ってわからないですね。

ということで、次回こそは、以前も告知しました、2001年にマーカスと行った、2度目の対談をアップしたいと思います。
お楽しみに。

CODA /納浩一 - NEW ALBUM -
納浩一 CODA コーダ

オサム・ワールド、ここに完結!
日本のトップミュージシャンたちが一同に集結した珠玉のアルバム CODA、完成しました。
今回プロデュース及び全曲の作曲・編曲・作詞を納浩一が担当
1998年のソロ作品「三色の虹」を更に純化、進化させた、オサム・ワールドを是非堪能ください!