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ジャズ入門講座伴奏編第6回は「循環曲への対応」です。
これは同時掲載の、「ベーシスト列伝第3回 ロン・カーター」とのコラボ記事となっていますので、ご興味のある方は是非そちらも読んでみてください。
今回は講座の参考例として、ロン・カーターによる「Hesitation」(譜面は有料です)を解説していますが、「ベーシスト列伝」の方でも、ロン・カーターの特長をお話しする上で、この演奏を取り上げています。
(この演奏は
で聞くことが出来ます)
この演奏の中では、第5回で紹介した「ロン・カーター方式」と僕が名付けたアイデアで構築されたラインも随所に見ることが出来ますので、第5回の入門講座伴奏編も是非読んでみてください。
それと、同時に、僕がジャズライフ誌上で掲載した、循環のラインとソロも投稿しておきますので、そちらも参考にしてみてください。
では、まず循環曲の解説から。
循環というのは、日本における呼称です。言い換えれば、「循環」という英語名の曲があるわけではなく、ある種のコード進行の曲のことをすべて、「循環」と呼んでいるということです。
「ブルース」と一緒ですね。
「C Jam Blues」(デューク・エリントン)も「Bags Groove」(チャーリー・パーカー)も「Sonny Moon For Two」(ソニー・ロリンズ)もみんなブルースです。
12小節から成るそのフォームから成る曲をすべてまとめて、「ブルース」と呼ばれています。
それと同じで、32小節での、ある決まったコード進行から成る曲はすべて「循環」と呼ばれています。
なぜかというと、そのコード進行が循環しているからです。
譜例1)を見てください。
(まあ、コード進行における理論的な解釈について詳しくない方には、「これのどこが循環しているの?」って話なんですが。)
最初の2小節に現れるBb-G7-Cm7-F7というコード進行は、ルートのBbから相対化して書くと、
Ⅰ- Ⅵ - Ⅱ- Ⅴ
というルートモーションになっています。
これは、このコード進行だけで、何十回でも何百回で続けることが出来ます。
キース・ジャレットなんかは、曲のエンディングで、このコード進行だけで、曲の本編よりも長く演奏したりします。
次の2小節も、3小節目最初のコード「Dm7」が、トニックとしてのBbの代理コードだと考えられるので、結局は
Ⅲ(Ⅰの代理)- Ⅵ - Ⅱ- Ⅴ
というコード進行となります。
これらが、いわゆる循環している(くるくる同じところを回わる)コード進行なのです。
で、この曲の中には多くの、循環するコード進行が現れます。
そんなことで、この32小節から成る曲を、日本では「循環」と呼んでいるわけです。
ですが、海外では、たとえちゃんと英語の「Circulation」と訳したとしても、音楽用語としては通じませんのでお気を付けください。
では英語圏では、この曲はなんと呼ばれているのでしょうか?
英語圏では「Rhythm Change」と呼ばれています。
このコード進行は、元々はデューク・エリントンの「I Got Rhythm」という曲のコード進行が、その大元となっています。
そのコード進行を使って、新たにそのメロディだけを変えて出来た曲が数曲あって、それらの総称を「Rhythm Change」といいます。「I Got Rhythm」のチェンジ(コード進行の意味)を使って出来た曲なので、「I got rhythm change」、それが短く略されて「Rhythm Change」となったというわけです。
ではそのコード進行を使って書かれた曲にどんな曲があるかというと、
「Anthropology」(ディジー・ガレスピー)、「Oleo」(ソニー・ロリンズ)、「Rhythm-A-Ning」(セロニアス・モンク)、「The Theme」(マイルス・デイビス)etc.
これら以外にも数十曲もあります。
曲数が多いということは、ブルースと一緒で、やはりセッションでよく演奏されるということですね。実際、ジャズのジャムセッションに行くと、この循環は、その中のどの曲が選ばれるかはさておき、必ず一回は演奏されるのではないでしょうか?
ですから、ベーシストとしても、必ず勉強しておいた方が良いコード進行ですね。
ところが、そんな頻繁にセッションで取り上げられる曲なのに、実は苦手だと感じているベーシストが多いようです。
その理由は、きっとその循環するコード進行によるのでしょう。
この曲を、譜例1)にあるコード進行のままに弾いていると、早晩、ネタにつきてしまいます。
何度も同じうようなコード進行が現れますし、しかも2拍ずつ次々に変化していってしまいます。
それをバカ正直に弾いていては、ネタが尽きるだけでなく、金縛りに遭ったような、もう抜け出せないという硬直状態に陥ってしまいます。
ではどうやってそれを解決するか。
ということで、循環コードのラインの対策の解説です。
1)バカ正直に、書かれてあるコード進行を弾かない
僕の本、「ジャズ・スタンダード・バイブル」にも循環の曲がたくさん載っています。
そのそれぞれに、当たり前ですが、コード進行が付けてあります。
でもそれってあくまで、その曲のメロディがそのコード進行の上で演奏されるという大前提の上で付けてあるコードです。
循環曲に限らず、メロディが終わってアドリブソロに入ったら、オリジナルのコード進行をひたすら追っかける必要はないということは、どのスタンダード曲にも言えますので、そのことをしっかり覚えておいてください。
で、この循環曲でいうなら、まずその一番のポイントは、Aセクションから次にAセクションに進むところ、小節でいうなら、15,16小節目から17小節目辺りです。
同じく、コーラスが終わって、新たなコーラスに変わる部分、小節でいうなら31,32小節目から次のコーラスに進行するところもおなじことがいえます。
普通のスタンダード本なら、もちろん僕のバイブルでもそうですが、その16小節目、また32小節目では、一旦トニックのBbに解決するように書いてあるはずです。
でもこの部分でトニックに解決してしまうと、そのすぐ3拍後にまたトニックが出てきてしまいます。
これではラインは作りにくいですよね。
ですので、以下のように考えてください:
「15,16小節および31,32小節目は共に、2小節間、ドミナントのセクションである」
こう考えると、16小節目から17小節目、また32小節目から次のコーラスの1小節目のトニックへと、ラインが作りやすくなるはずです。
場合によっては、32小節目は一旦トニックに帰って、コーラスが終わったことをはっきりラインで明示することもありですが、それは、例えばソリストが変わる、あるソリストの最後のコーラスのみなら良いかもしれません。
逆にソリストが、新たなコーラスに進もうとしているようなときは、無理に31小節目で解決せず、それを次のコーラスの1小節目まで待つほうが、ソリストにとってもソロの流れが止まらないといった効果があるのではないかと思います。
2)コードはそのままで、ルート以外の音から入ってみよう
まずは、コードはそのままですが、1拍目の音を、ルート以外の音から入るというアイデアで対応してみましょう。
それと、さびは、譜例1のようなドミナント7thの連続ではなく、そのそれぞれを、細かくツーファイブに分解してみます。
譜例2)を見てください。
こういったことは、とにかく頭のトレーニングですから、この循環のコード進行にかかわらず、様々なスタンダード曲を使って、小節の1拍目をルート以外の音から入ってラインが作ることが出来るよう、練習してみてください。
3)様々なリハモナイゼーションをはめ込めてみる
リハモナイゼーション(以下リハモ)というのは、例えばこの循環曲でいうなら、本来のオリジナルのコード進行(譜例1のコード進行)に対して、それぞれのコードやあるいはコード群に対して、それらの機能を考慮した上で、それに変わるコード付けをしようという試みです。
「リ」というのは、日本語では「再」、「ハーモナイゼーション」というのは、ハーモニーを付ける作業、すなわちコードを付けること。これを合わせると「再ハーモニー付け」ということですね。
では具体的に、どのようにリハモ出来るかを考察していきましょう。
譜例3)を見てください。部分部分で解説していきましょう。
あ)BdimとC# dimは、上行系のパッシングディミッシュ(P.D.)ですね。
(P.D.を知らないという方は、理論書などで確認してください。)
い)Db7とB7は、それぞれG7とF7の裏コードです。
(裏コードがなにか知らないという方は、理論書などで確認してください。)
う)13小節目のEm7(b5) に向けて、時間軸とは逆にドミナントコードを設定していく、いわゆるエクステンデッドドミナントの連続です。
(エクステンデッドドミナントがなにか知らないという方は、理論書などで確認してくださ
い。)
え)16小節目のトニックBbに向けて、13小節目からツーファイブを連続させて解決させています。
お)え)と同じアイデアです。29小節目のトニックBbに向けて、小節目からツーファイブを連続させて解決させています。
これを、譜面のようなツーファイオブではなく
F#7→B7→E7→A7→D7→G7→C7→F7→Bb
という、エクステンデッドドミナントの連続と置き換えてもいいでしょう。
実際、これをすべて使う(すなわち、この譜例3をそのまま弾く)と、かなりいびつなサウンドになってしまいますので、これはあくまで可能性をすべてあげたものですから、どれをどのくらい使うかは、各自適宜判断してください。
4)ロン・カーターのラインのアイデア
では、実際、ロン・カーターがどのようなラインを弾いているか、考察してみましょう。
本当は譜面を見ていただくと一目瞭然なので、懐に余裕がある方は是非、譜面をご購入ください。
★1 2コーラス 23,24小節目
25小節目のトニックBbに解決するように、24小節目2拍目にその半音上のドミナントB7を置く。その上で、そのB7に向けて、23小節目から2拍ずつF7→Eb7→Db7→B7と、ドミナントコードを平行移動させている。
★2 3コーラス 5~8小節目
7小節目3拍目のトニックBbに解決するように、5小節目から2拍ずつBb7→Eb7→Ab7→Db7と、ドミナントモーションを連続させている。
ただ最後の部分、Db7→B7はドミナントモーションとはいえないので、これがどういう考えなのかは、ロン・カーター本人に尋ねるしかありません!
★3 3コーラス 11、12小節目
表コードと、それに対応する裏コードを連続させる。
G7→Db7→Gb7→C7
★4 3コーラス 13、14小節目
これがまさにロン・カーター方式です。
この事に関しては、サロンの入門講座伴奏編5を参照してください。
★5 4コーラス 25~27小節目
ロン・カーター方式です。
★6 5コーラス 9~12小節目
一応コードを付けてみましたが、ロン・カーター本人がこのように設定していたかどうかは判りません。ただ、推測できるアイデアとしては、13小節目のトニックBbに対して、4小節間連続してC7→F7というドミナントモーションを連続して設定する。
★7 5コーラス 19、20小節目
ロン・カーター方式です。
★8 5コーラス 23、24小節目
裏コードから表コードに移行するという、「★3」と同じアイデアです。
Cm7→Db7→G7
★9 6コーラス 1~4小節目
エクステンデッドドミナントの連続です。
F#7→B7→E7→A7→D7→G7→C7→F7→Bb
★10 6コーラス 9~12小節目
「★9」と同じアイデアです。
★11 6コーラス 15~18小節目
クロマティックノートがたくさん出てきますが、理論的にはどんなアイデアなのかはよくわかりません。もし「こうじゃないか?」というようなご意見があれば、是非教えてください。
★12 7コーラス 9~12小節目
リハモのところに挙げましたが、上行系のP.D.です。11小節目はロン・カーター方式ですね。
★13 7コーラス 21~24小節目
ロン・カーター方式です。
★14 8コーラス 20~22小節目
ロン・カーター方式です。
★15 8コーラス 25~28小節目
トニックBbに対して、E7やDb7という、短3度や増4度上のドミナントコードを設定しています。
これ自体には、理論的な裏付けはありませんが、あえていうなら、Bbに対してのディミニッシュな動きのルートノートを置くことで、アウトなサウンドを求めたものと思います。
★16 9コーラス 31、32小節目
これも、理論的な裏付けはありませんが、ドミナントコードを無機質に連続させることによって、アウトしたサウンドを得ようとしたものと思います。
★17 10コーラス 9~13小節目
Bb→Db7→Gb7→B7というのは、いわゆるコルトレーン・チェンジです。
それを6小節間連続させることによって、これも、本来のサウンドから遠くアウトした雰囲気となっています。
★18 12コーラス 11~14小節目
ここも、ドミナントコードが連続していますが、そのつながり自体には理論的な裏付けはありません。というよりも、ハーモニー楽器がないので、実際、ドミナントコードと考えて良いのかどうかも定かではないので、すべては「ロン・カーターのみぞ知る!」ですね。
★19 12コーラス 19~20小節目
ロン・カーター方式ですが、G7のときに13thの音「E」を使っています。
これらはあくまで、僕にとって気になった部分であり、それ以外にも様々な、面白いラインがありますので、是非皆さんもじっくり研究してみてください。
「循環」というのは「ブルース」と一緒で、追求すればきりがないくらい、奥の深いものかと思います。それだけに、このコード進行を使った曲がたくさんあり、またそれらの曲が」ジャムセッションでも頻繁に取り上げられているのでしょう。
ということで、皆さんもしっかり勉強してください。
譜面は別途課金制となっています。
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