【コラム】「ジャズとは?」

ジャズファンやジャズ演奏家なら、誰しも一度はこんなことを考えたことがあるのではないでしょうか?
僕自身、ジャズを演奏し出して、早40年、その間何度もこの命題に直面してきました。

「この音楽はジャズ?」「この人の演奏はジャズ?」「僕が今演奏しているこの音楽はジャズ?」等々。
その度に、僕自身がその答えを出す上で最も重要な判断材料としていることが、即興性とハプニング、そしてミュージシャン同士のカンバセーション(会話)です。

もちろん事前にいろんなことを仕込んでおくことは、その日の演奏のクオリティを上げる上では、とっても大事なことです。
また、即興でアドリブソロを取っているからといって、その細部に関しては、全て事前に鍛練した技術や研究したフレーズ、はたまたしっかり学んだ理論などに基づいている訳ですから、そういう意味では、全て事前に仕込まれたものであると言えるでしょう。

僕がレッスンでよく言うのは、「無い袖は振れない」。よほどの天才でない限り、聞いたこともないフレーズが突然思い浮かぶわけもなく、もっと言えば、練習で弾けないフレーズが、本番で弾けるはずがありません。

でも、やっぱり即興性は、ジャズの演奏には無くてはならない要素。
どんなに事前に仕込んでいても、その通り、ことが運ぶことはまずありません。
この度合いの多さが、クラシックやポップス、ロックなどとジャズが、根本的に違う部分かと思います。
そしてそのことが、まさにハプニングにつながるわけで、事前に仕込んでいたこととは違うことが起こった時に、そこから違うストーリーが始まり、そのハプニングから新たな音楽を創造していくことこそがジャズかと思います。

そこでとても重要になってくるのが、他のミュージシャンとの関係性です。
例えば、こちらが事前にしっかり仕込んでおいたとしても、もし一緒に演奏しているミュージシャンが、その仕込みとは全く相入れないアプローチをしてきたとしたら、そのアプローチに合うような変化を、こちら側もしなければいけません。
これはまさに会話と同じで、いくらこちらが台本を作っておいても、もし相手の受け答えが、その台本とは全く違う展開となれば、当然話の筋を変更せざるを得ない、そんな感じでしょうか。

そういう意味では、ほとんど即興性のない演奏、全くハプニングが起こらない音楽、全然会話を受けつけてくれないミュージシャン等々は、たとえ「枯葉」や「ブルース」を演奏していても、それは僕にとってはジャズとは言えないということです。
逆に「赤とんぼ」や「いとしのエリー」、「Smoke On The Water」を演奏していても、ジャズと呼べるような演奏はいっぱいあります。(実際、ライブでのDeep Purpleは、毎回全く違う演奏やソロ、やってますからね!)
ましてや、ベースが4ビートをやっているからジャズだということでは全く無いというのが、ぼくのジャズの定義です。

ジャズとは、そんな意味で、まさに自由な音楽と言えます。その時その瞬間に感じたことを、各ミュージシャンが自由に発信し合う、そこから生まれる会話の即興性とハプニングこそが面白いわけです。
でもだからといって、勝手に何をしてもいいというわけでもありません。
そこには様々なルールがあります。
リズムをキープすることであったり、曲のフォームを守ることであったり。
またソリスト(=話し手)が誰で、サポート(=聞き手)は誰か、特に伴奏者は、どんな聞き方や合いの手をするのがいいのかといったことは、いいアンサンブルを構築する上ではとっても大事です。

この世の中もそうですが、自由というのは、なんでも自分勝手に行動していいことではありません。
自由を謳歌するためには、多くの責任が伴います。
昨今、SNSなどでは、特に匿名でなんでも好き勝手に発言して、自分の鬱憤を晴らすような言動をするような姿勢が目に余る気がします。音楽も社会も、良いアンサンブルを構築するためには、基本のルールを守り、相手の意見や考え方を理解し、その上で自分の主張を相手に投げかける。でも大事なことは、意見が食い違ったとしても、それなりの着地点をお互いに模索して歩み寄る、そんな姿勢かと思います。
アマチュアの方のセッションなどでよく目にするのは、食い違った意見がぶつかり合った時に、お互いに着地点を模索することなく、エンディングまでそれを引きづるといった演奏です。これ、聴いていてしんどいですよね。
ま、食い違ったときに、相手とうまく着地点を見つけるというのも、実はかなり高度な音楽的技量なんですが。

長くなりましたが、皆さんも是非「ジャズとはなんぞや?」という質問に、答えを探してみてください。
すると、ジャズがまた面白くなると思います。

そうそう、最後にこんな逸話を。
以前、加藤登紀子さんのコンサートをサポートした時に、登紀子さんがMCでこんなことを仰いました。
「人生って、一歩先は闇。でも、だから人生って面白いのよね。」
これを後ろで聞きていた僕は、「おお、それってまさにジャズやんけ!」

CODA /納浩一 - NEW ALBUM -
納浩一 CODA コーダ

オサム・ワールド、ここに完結!
日本のトップミュージシャンたちが一同に集結した珠玉のアルバム CODA、完成しました。
今回プロデュース及び全曲の作曲・編曲・作詞を納浩一が担当
1998年のソロ作品「三色の虹」を更に純化、進化させた、オサム・ワールドを是非堪能ください!