Got A Match by John Patitucci ベース譜

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Got A Match by John Patitucci ベース譜

商品番号:DL23062308
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今回も、「こんな曲をコピーしました!」との、コラボ記事とさせていただきます。
もちろん、内容は全然異なります。

そちらの方では、アルバム、「GRP Super Live」に収録されている、チック・コリアの曲「No Zone」での、パティトゥッチのアコースティックベースでのソロを採譜し、解説しています。

で、こちらの方では、彼についての僕の想いや受けた影響、そしてその奏法について詳しく書いてみたいと思います。それとこちらでは、「The Chick Corea Electric Band」での「Got A Match?」の譜面も同時に掲載しておきます。もちろん、この曲では、6弦のエレクトリックベースを弾いています。

このように、両方の楽器をここまで自由自在に弾きこなすことの出来るベーシストも、そうはないと思います。
でも、元々は超絶技巧のスーパーテクニシャンと思われていましたが(もちろん、いまでもそうですが!)、最近のウェイン・ショーターやハービー・ハンコック、ちょっと前のマイケル・ブレッカーらのサポートや、自身のソロアルバムなどを聴いていると、どこかしらいぶし銀のような、落ち着いた深みのあるプレイスタイルも出てきたと、僕は思っています。
本人に言わせれば、きっと、「昔からそうだ!」おっしゃるでしょうが。
とにかく、おそらくいまもっとも著名なジャズミュージシャンから引っ張りだこのベーシストの筆頭と言って過言ではないと思います。
単にソロがうまいテクニシャンというだけでは、そんな方々からお呼びがかかるわけがありません。そういった剛柔織り交ぜたサポートのセンスも、彼が当然、多くの人から認められている重要な要素と言えるでしょう。

さてではそのパティトゥッチの基本情報です。
生年月日:1959年12月22日
出身地:アメリカ ニューヨーク州 ブルックリン
こうやって見ると、僕と1歳違い、あのマーカス・ミラーと同じ歳なんですね。
たしかマーカスもNYのブルックリン生まれ。こんな凄いベーシストが二人とも、同じ年の同じ街で生まれ育ったんですね。さすがにジャズの街ですね。
はっきりしたことは判りませんが、パティトゥイッチは、彼のお爺さんもお父さんもコントラバス奏者だったとかというのを、何かの記事で読んだ記憶があります。
パティトゥイッチという名前からも判るように、イタリア系移民だそうで、きっとお爺さん達はイタリア譲りのバリバリのクラシック系のミュージシャンだったのではないでしょうか?
少なくとも彼にはクラシックのバックグランドがかなりあるということがよくわかります。
それは、彼のリーダーアルバムにたくさん収録されている、クラシカルなストリングスカルテットなどを使った彼のオリジナル曲を聞くと、そのことがよくわかります。
それらはクラシックへの造詣が深いことが窺い知れるような曲で、おそらくそのアレンジも彼自身がしているのではないでしょうか?
そのストリングスをバックに、6弦のエレクトリックベースで彼がメロディやソロを取っているのですが、本当に優雅な感じです。
またもちろん、彼のアルコ(弓弾き)によるアコースティックベースの演奏でも、彼がいかにしっかりクラシックを勉強したのかといういうことが判ります。
専門的なことをいえば、彼の弓の持ち方はフレンチスタイルで、いわゆる、バイオリンやチェロのそれと同じです。
この持ち方は、大抵の場合、コントラバスをはじめる前にバイオリンなどの楽器を触っていた人によく見られます。
もちろん、最初にコントラバスを習った先生がフレンチスタイルの弓の持ち方だったのかもしれません。その意味では、お爺さんやお父さんがフレンチスタイルだったのでしょうか?
いずれにしても、本当に幼少の頃からクラシック音楽に触れていた可能性は大です。
ウィキペディアによれば、10歳でエレクトリックベースを、そして15歳でアコースティックベースをはじめたそうです。
自分のことをいえば、僕は14歳でエレクトリックベースを、そして19歳でアコースティックベースを始めています。この年代の4~5年というのは、本当に大きな差となります。

さらに彼が育ったのはNYですからね。
ま、こんな出生の差を嘆いても仕方ありませんが、とにかくうらやましい限りです。
では彼の奏法について、触れたいと思います。
彼のスタイルは、エレクトリックベースもアコースティックベースのどちらも、実にオーソドックスと言えます。
ではまずエレクトリックベースから見てみましょう。
彼は、ほとんどスラップをしません。もちろん、チック・コリアのエレクトリックバンドなどでもやっていますが、派手なことはほとんどしませんし、ましてやスラップによるソロは、少なくとも僕は聞いたことがありません。
きっとそれは、彼がメインで使う楽器が6弦ベースだからでしょう。
これも、自分の事になりますが、僕も6弦ベースをメインに使います。すると、スラップをするときに、4弦ベースより余分に付いている2本の弦が、スラップという奏法には実に邪魔になるのです。そんなことで、6弦ベースを弾いているときは、ほとんどスラップをしません。逆にスラップをするときは、そのためだけに4弦ベースに持ち換えるのですが、彼もそのようです。
スラップをするときだけ、そのための4弦ベースを用意しているようです。
これはエレクトリックバンドの映像で見たのですが、曲中で一瞬出てくる、スラップが必要なセクションのために、わざわざその4弦ベースをスタンドに掛けて、6弦ベースを持ちながら、そのセクションの時だけその4弦ベースでスラップをするというような映像がありました。
それくらい、スラップするときとそうでないとき、楽器を分けているんですね。

彼の右手に関しては、実に普通の2フィンガーによるものです。
昨今はやりの、3フィンガーや4フィンガーというような奏法も全く使いません。
でもその2フィンガーでも、あれほどの高速フレーズが弾けるんですからね。
それに、3フィンガー以上になると、これはあくまで僕の意見ですが、どうしても弦を弾く力が弱くなり(3フィンガー以上だと薬指や小指といった、パワーのない指による演奏となるため)、それでも音が出るよう、楽器のセッティングも緩いものにせざるをえません。
例えば弦高に関していえば、かなり下げなければならないなど。
でもパティトゥイッチの音を聞いていると、本当に強く太い音がしています。
あのような音を出すためには、やはり楽器のセッティングは多少ハードめだと思いますが、それを弾きこなそうと思えば、どうしても2フィンガーにせざるを得ません。
というか、僕もパティトゥイッチと同世代ですが、僕らが楽器を始めた頃には、そんな3フィンガーや4フィンガーというような奏法はなかったですから。
彼の奏法は、アコースティックベースにおいても実にオーソドックスです。
もちろん、ジャズにおけるアコースティックベースの奏法に関していうなら、昨今のエレクトリックベースの奏法の変革から比べれば、見たこともないような新しい奏法というものはほぼゼロといえます。
ニールス・ペデルセンのように3フィンガーで弾く人もたまにいますが、本当に少数派だと思います。
ただ、はやりエレクトリックベースの時と同じく、とても強くて太い音がしています。かなりハードめに弾いているように思いますし、楽器のセッティングも、例えば弦高なども多少高めかもしれませんね。
ということで、パティトゥイッチに関していうと、特筆すべきはその奏法ではなく、フレーズそのものと言えるでしょう。
僕はアコースティックベースに関してもエレクトリックベースに関しても、かなりパティトゥイッチのフレーズを勉強しましたし、影響も受けました。
彼がジャズシーンで脚光を浴びるようになったのは、まさにそのエレクトリックバンドでのデビューの時だったと思います。
アルバムは1986年発表ですが、その頃僕はちょうどバークリーにいたので、ボストンでこのトリオの演奏を初めて見ました。その時は、彼は6弦ベースしか弾きませんでしたが、その頃はまだ6弦ベースを弾く人はほとんどシーンにいませんでした。
アンソニー・ジャクソンも使っていましたが、彼はそれほどソロは取りません。
ということで、初めてパティトゥイッチの6弦ベース、特にそのソロを聴いたときはぶったまげました!
そしてそんな彼のソロを研究するためにすぐに取り組んだのが、この譜面にある「Got A Matach?」だったわけです。
もちろん、当時もジャコやマーカスといった、素晴らしいソリストはいましたが、それらすべては4弦ベースによるもの。パティトゥイッチの6弦ベースでの演奏は、その使用する音域の広さもそうですが、フレーズそのものも、エレクトリックベースのそれとはとても思えないようなもの。

僕もちょうど、当時5弦ベース(当時、Hi-C弦を張ったスタインバーガーの5弦を使っていました)で、より高い音域へのアプローチを考えていたところだったので、勉強するにはもってこいの素材でした。
ちょっと話は逸れましたが、ということで、彼のフレージングは、広い音域を使った、アルペジオの分散フレーズが多いのが特徴です。
この「Got A Matach?」の譜面を見ていただければ、随所に、1オクターブ半くらい一気に駆け上がるフレーズがありますよね。中には2オクターブくらいに及びものもあります。
これはさすがに4弦ベースでは至難の業です。
これも僕の個人的な見解ですが、パティトゥイッチはマイケル・ブレッカーを相当研究したのではないでしょうか?
というのも、彼のデビューアルバムに、マイケルをゲストに迎えている曲があるのですが、その曲中での二人のソロを聞き比べると、かなり似ていることに気がつきます。
もちろん、こういった、アドバンストなアイデアでのソロアプローチを研究すれば、同じような内容にたどり着くのかもしれませんが。
あとは、複雑なリズミックモチーフの連続も、彼の得意とするところです。
そんなフレーズが、この「Got A Matach?」にも随所に出てきます。
そんなフレーズが出るときは、彼は割と、元のコード進行やスケールを全く無視することがよくあります。この「Got A Matach?」でもそんな箇所がたくさんあります。
ある明快なモチーフをデベロップさせるときには、そこに多少、元のスケールでは合わない音が出てきても、人の耳にはそのモチーフの方が強く聞こえるので、モチーフにおける、スケールから外れた音も、元のスケールに勝ってしまうわけですね。
しかも、チックはそういったことをよく理解していますから、その瞬間は伴奏を止めたり、あるいは差し障りない音のみでの伴奏をしたりします。
というか、この「Got A Matach?」を聞くと、おそらくですが、パティトゥイッチのソロは事前に作られた、いわゆる書きソロかと思います。
というのも、ポイントポイントで、チックやデイブ・ウェッケルの伴奏が、見事に合っている、というか合いすぎていますから。
そんな部分も、聞いていただけると楽しいかと思います。
今回も、何十年ぶりかでこのソロを採譜し直しましたが、いやはや、凄いですね。
そのときは、あと何十年かしたら弾けるようになるかもしれないなんて思っていましたが、弾けるか弾けないという意味では、きっと当時の方が弾けたような気がします。
はやりこういった肉体的な技術というのは、若いときに身につけておかないとと、痛切に感じる今日この頃です。歳を取ってから身につくものではないと思います。
実はこの曲を僕の本、「ジャズ・スタンダード・バイブル2」で取り上げたのも、そんな個人的な想いからでした。
ということで、サロンの皆さんも、是非このソロ、研究してみてください!